凡記録

20もなかば、看護師、文を書く

祥太は最後に何を考えたんだろう

是枝裕和監督の「万引き家族」を観ました。

 

ほの暗い展開が続くこの映画、印象的な場面はたくさんありました。

各方面で言われているけど安藤サクラの泣き場面とか。松尾茉優のセクシーシーンとか。樹木希林のおばあちゃんぷりとか。

 

全体的に切なさを感じることが多かったのですが、一番胸を締め付けられたのは最後。

父・治(リリー・フランキー)が、児童養護施設に戻る息子・祥太(城桧吏)を見送るところ。

 

児童養護施設に戻らず、治の家に泊まった祥太。

2人は同じ布団で眠ります。暗い部屋で、敷布団に背中合わせで横になっている2人。「僕を置いて逃げようとしたの?」と、祥太が事件を起こした日のことを治に尋ねました。治は否定しません。釈明などせず、眠りについてしまいます。祥太もそれ以上の追究をしません。

翌朝。児童養護施設行きのバスの停留所に向かう途中、治は祥太にこう言うのです。「おれはただのおじさんに戻るよ」と。それまでずっと「お父さんって呼んでみな」って、期待をこめて言っていたのに、です。

 

この時の、リリー・フランキーの表情と、後ろ抱きの仕方といったら!

自信のなさをへらへらと誤魔化すお父さんが、一気にくたびれたただの中年に変貌しました。役者って、スゴイ。

祥太はさいごまで治を「お父さん」と呼びません。施設の規則を破って外泊したり、発進したバスを追いかける治を祥太は振り返っていました。祥太は、万引きや車上荒らしをする治に疑問を感じても、嫌いではないのでしょう。

置き去りにされかけた事実を突きつけられて、祥太はどう思ったのでしょう。本当は警察の嘘だったんじゃないかって確認したかったのではないでしょうか。

おじさんに戻るよ、と言われたときがお父さんと呼ぶチャンスだったかもしれないのに、言いそびれたからバスの中で振り返ったのでしょうか。そもそもお父さん、と呼びたい気持ちはあったのでしょうか。

 

特殊な環境で育った子供だから、きっと感じることは常人とは違うのでしょう…。

と、祥太の気持ちを想像したとき、「万引き家族はおもしろかったなぁ」って思うのでした。